
スエズ運河開通の翌年(1871年)に初演された祝典的大作で、古代エジプトを舞台とした作品。
アイーダ(囚われのエチオピア王女)とエジプトの若き将軍ラダメスとの清冽な愛を息つく暇もない壮大なスペクタルで描く上演時間約4時間15分(休憩時間を含む)の作品。
この作品を見てしまうと他の舞台作品の規模がみすぼらしく見えてしまうのではないかと思うほどだ。
見ものは何と言っても第二幕のエジプト軍の凱旋の場。
この場面を期待してティケットを買ったと言ってもよいくらいの名場面。
トランペットの勇壮な凱旋のテーマが、舞台裏から聞こえてくると、胸がわくわくする。
この歌劇のために考案されたとするエジプト・トランペット(別名アイーダ・トランペット)にのって兵士が行進する「凱旋行進曲」のリズムは、何度聞いてもよい。
このリズムは歌劇に親しむ前から、ラジオ等で流されていたのが頭に残っており、懐かしさを覚えた。

エジプト軍の戦勝を祝い、若い乙女たちが華麗なバレエを繰り広げるのも見落とせない。
異国情緒たっぷりの古代エジプトを思わせるバレエに目が釘付けになる。
ステージ上でコーラスを担当している兵士たちを、双眼鏡(ドイツ・ツァイス社製)で見ると、50代以上の中高年齢者がほとんどで若い人は見当たらず、スカラ座の歴史を感じさせられた。
今回はエジプト王女役の「ルチアーナ・ディンティーノ」が喉を痛めたため急遽代役に「エカテリーナ・グバノヴァ」が出演。そつなく、きちんとこなしていた。
歌手の健康状態により、きちんと代役がいるということと、その代役の舞台衣装も準備していることに、人間が演じている生のステージに対する準備も行われている周到性に気づく。
ステージの装飾は、左右対称のシンメトリック構成がほとんどで、合唱団役の人たちも常に左右バランスよく並んでおり、見ているわたしたちに安定感を与えていた。

わたしの手元には、二つの「アイーダ」のDVDがある。
一つは かの3大テノールの一人で今も活躍している「プラシド・ドミンゴ」がラダメス役を演じ、指揮がジェームズ・レヴァインのニューヨークメトロポリタン劇場の作品。
このステージ規模は凄くて、エジプト軍が凱旋してくるシーンでは本当の馬4頭が引く馬車が登場するという規模。
もう一つは、今回と同じミラノ・スカラ座の1989年の作品。ラダメス役は今は亡き3大テノールの「ルチアーノ・パヴァロッティ」が演じ指揮者は「ロリン・マゼール」。
今回のNHKホールでの日本公演を見るにあたって1989年のミラノ・スカラ座の作品をレビューして行った。
時代が変わると同時に舞台のスケール・舞台芸術が見違えるほど変わっており、古代エジプトの雰囲気が格段と良くなっているのに驚いた。
舞台の合間の廊下では、美しく着飾った品の良い若い女性が多く見受けられ、華やかさにハッとさせられることが多かった。
概して中年以降の客が多く、意外に男性が多いのには驚いた。わたしもそのうちの一人・後期高齢者だったが。
わたしの席は3階席の中央部前面のB席(51,000円)。
着席した状態で、オーケストラピットの交響楽団と広いステージがすべて目に入り、舞台が進行するに従いわたしの全身全霊が歌劇に集中して3階席を意識しなかった。
世界トップクラスの歌劇歌手が、マイクを使わず広いホールの隅々まで美しいソプラノやテノールを響かせ、オーケストラの楽器名演に共鳴して素晴らしい音響効果に身震いがするほどだ。
演歌歌手がマイクを使って唸っているのとは比べ物にならない声と音量。これぞ歌劇の醍醐味なり。
当日の切符は売り切れで、NHKホールの外には「チケットを求む」と書いた紙を掲げている人がいた。またプログラムも早々と売り切れていた。
舞台を見ていて、フッと600人もの関係者がこの舞台にかかわっているとすれば、舞台裏の歌手や合唱団の休憩室が十分にあるのかなと余計な心配をした。
NHKホールは、年末の「紅白歌合戦」仕様(?)で、出演者もそう多くないはず?
次回はもう少し『ぐうたら百姓』を真剣に行い、セレサモスへ多くの出荷をしてチケット代を稼いで、せめて「A席」の最高席を確保し、舞台の合間には、「上質なワイン」でもたしなみたいものだ。
いや、本場のイタリア・ミラノへ出かけて「スカラ座」で、鑑賞したい。
しかしイタリアでは、舞台のそでに日本語の字幕表示が出ないので、田舎百姓のわたしには向いていないか!金もないし!
尚、今回の歌劇は来る11月20日(金)夜10時半からのNHK教育TV 芸術劇場で放映予定とのことで、是非、スカラ座のスケールの大きな「アイーダ」をご鑑賞ください。
(参考:鑑賞した歌劇とその関連リスト)
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平成21年9月9日(水)日経夕刊から転載
(わたしが鑑賞したのは6日であり、記事は4日の鑑賞をベースにしている)
