2008年10月25日

歌劇「エレクトラ」

剣士少しばかり歌劇を鑑賞してきたが、この「エレクトラ」は、今まで見てきた作品とは全く異なる異質の作品であると感じた。

上演時間約2時間の間に、男と女の恋や愛にまつわる様な明るい場面や喜びの場面がなく、最初から最後まで暗い・陰鬱な場面とそれを助長するオーケストラの強烈で肉厚な音楽で成り立ち、見るわたし達をストーリーにひきつけていく。

一緒に鑑賞した友に依れば、『気持ちが悪い、凄惨な作品で、あと味がよくない』と言う。


ドイツの作曲家 リヒャルト・シュトラウスの有名な「サロメ」に続く壮絶で凄惨な歌劇。

古代ギリシャのミケーネ地方を舞台にしたギリシャのソポクレース悲劇「エレクトラ」を題材に、ホフマンスタールが戯曲化した台本を基に、シュトラウスが作曲した歌劇。

 

トロイ戦争から戻ったミケーネの王アガメムノンは、王妃クリテムネストラとその情夫エギストに斧で頭を割られて暗殺された。

 

王アガメムノンには、3人の子(長女:エレクトラ次女:クリソテミスエレクトラの弟:オレスト)がいた。父を暗殺した実母で王妃のクリテムネストラと情夫エギストに、王女で長女のエレクトラは復讐を企て、鬼と化した。

 

エレクトラは復讐するために幼少の王子オレストを他所に落ち延びさせ、彼の成長を密かに待っていた。

 

エレクトラは、妹のクリソテミスに復讐計画を打ち明け加担を望むも、クリソテミスはそれより人の子どもを産み女の幸せを求めたいと拒む。

 

ある日、エレクトラは城にたくましく成長して戻ってきたエレクトラの弟オレストと再会。

 

オレストは、王女で姉のエレクトラの復讐計画に従い宮殿に向かう。母クリテムネストラの断末の叫びが聞こえる。そこへ現われた母の情夫エギストも何も知らず宮殿に入ると、まもなく助けを求めるエギストの声が聞こえる。

 

妹クリソテミスが、敵であったエギストも弟オレストによって倒されたとエレクトラに告げる。

 

それを聞き長い間の念願であった復讐が実現できた喜びに、エレクトラは激しく降る雨の石畳の暗い 城の庭で、狂喜乱舞し息絶える。

 

今回鑑賞した作品は、いずれの解説書でも第一位に挙げている「カール・ベーム」指揮によるウイーン国立歌劇場でのスタジオ録音に、リアルな映像を加えた歴史的な名作。出演者も当時の第一級クラスの歌手でそろえた作品。

 

主な出演者

エレクトラ(復讐の鬼と化した元王女):レオニー・リザネク(S

クリテムネストラ(エレクトラの母、夫であった王を殺し、情夫と暮らす):アストリッド・ヴァルナイ(MS

クリソテミス(エレクトラの弟):ディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウ(Br

エギスト(王妃クリテムネストラの情夫):ハンス・バイラー(T

 

指揮:カール・ベーム

演出:ゲッツ・フリードリッヒ

演奏:ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウイーン国立歌劇場合唱団

 

収録:1981年、ウイーン国立歌劇場で映画仕立てに収録

 

一般に歌劇と言えば、多くの人が入れ替わり立ち替わり登場するが、この作品は、復讐の鬼と化したエレクトラ一人の心理状況を扱った まさに心理ドラマ。

登場する人物は、エレクトラのソプラノ一人、舞台は終始真っ暗な森や城内の中というフロイトの深層心理を描いた歌劇であるという評論家もいる具合。

 

主役のエレクトラは、最初から最後までステージに登場し復讐を企て実現すると言う強烈な役に加えて、ストーリーを展開する強靭なソプラノの声が重要な役をするためのスタミナが求められる。管弦楽の音を突き破って、発声を求められ実行するレオニー・リザネクの実力は驚嘆に値する。

 

わたしも少しは歌劇を鑑賞してきたが、この作品は強烈なインパクトのある作品の一つに数えられる。

 

ストーリーが極めて単純な復讐劇であり、登場人物の役柄も明白、そして場面のシチュエーションをシュトラウスの意思がはっきり分かるオーケストラの音作りが理解を助けるのに効果的。これほどオーケストラの重要性を認識したことはなかった。

 

最後に 「エレクトラ」は、電気をあらわすelectro-と言う言葉の語源であると解説書は示していたが、わたしには、その理由が良く理解できないでいる。

 

 (参考;鑑賞した歌劇とその関連リスト


Posted by tomato1111 at 00:05