2008年08月03日

新語「ニワトリ症候群」

22[1]Nikkei BP net 「時代を読む新語辞典」2008年3月11日に興味深い新語「ニワトリ症候群」が掲載されたのでご紹介します。

(一言一句 原文に忠実に引用させていただいた。作者 もり・ひろし氏に敬意を払い、管理人は文章に一切手を加えていない。但し読みやすくするために、文字の装飾は管理人が行った。) 


にわとり好きな料理しか食べなかったり、独りで食事したり、朝食を抜いてしまうような子が、最近増えているという。このような由々しい食習慣に、「ニワトリ症候群」という造語が付けられた。子どもの食習慣の乱れは、健康上の問題を引き起こすだけでなく、生活習慣全般への影響も引き起こしかねない。

 

(イラスト:小林商事)

 

子どもの食習慣の乱れを表す言葉はいくつかある。

 

今回テーマとした「ニワトリ症候群」もその一つ。この言葉は、子どもの間に広まっている孤食・欠食・個食・固食(または粉食)という4つの食習慣を総称する。

以上の頭文字をつなぎ合わせるとコケッココ(孤欠個固)となる。

教育臨床学者の中井孝章教授が、朝日新聞の記事(2007212日)で「現在の子どもたちの食生活は『ニワトリ症候群』と言われます」と述べたことから注目されるようになった。

 

ニワトリ症候群」とは別に「こ食」という表現もある。

こちらは孤食・個食・固食・小食・粉食という5つの食習慣を総称する。ただし発言者によっては、これ以外の食習慣を含める場合もある。

食育について積極的な発言を行っている料理評論家の服部幸應氏も、この表現で食生活の乱れを指摘している。

独りで食べる、朝食を抜く…

 

では孤食や個食などの語は、具体的にはどのような食習慣を表しているのだろうか?

 

まず孤食は、子どもが独りで食事をとることを言う。厚生労働省は『平成17年国民健康・栄養調査結果』(20075月発表)で次のように報告している。

「朝食を子どもだけで食べる」とした回答者の割合は、小学生のうち40.9%存在した。この割合は過去の調査結果に比べて増えているという。ちなみに1988年における割合は26.8%だった。

 

次に欠食とは、子どもが朝食を抜いてしまうことを言う。

前述の厚労省の調査によれば、「朝食をまったく食べない」と回答した人が、小中学生で1.5%、高校生で9.6%いた。

 

さらに個食とは、家族がそれぞれ別々の料理を食べることを言う。

つまり家族が同じ食卓を囲んでいながら、「大人は和食で子どもはカレーライス」といった具合に、食べる料理を分ける習慣が広がっているのだ。これをバラバラ食と言う場合もある(注:個食には他の意味もある。孤食と同じ意味で用いる人もいるほか、食品業界では小分けした食品を指す)。

 

この他の造語も簡単に紹介しておきたい。

固食とは好きなものばかりを食べることを言う。

何日も続けてピザばかり食べるようなケースだ。

 

また粉食とは、パスタなど小麦粉を使った食品ばかりを食べる行為を言う(注:粉食は本来「ふんしょく」と読む既存の熟語)。

 

さらにコンビニやファストフードなどに頼ってしまう戸食(戸外食の略とされる)、そして濃い味のものばかり食べる濃食など、様々な概念が提案されている。総じて「子どもが好きなときに好きなものだけを食べる」点で共通している。

共働きで忙しい両親、ファミレスやコンビニが便利

 

このような食習慣が登場したことの背景として、家庭環境や社会環境の変化を指摘する人が多い。まず家庭では核家族化や共働き化によって、食事に手間をかけられない状況ができてしまった。また社会ではファストフードやファミリーレストランなどの外食産業や、スーパーマーケットなどを通じて総菜などを販売する中食(なかしょく)産業が発達。子どもだけでも、好きなときに好きなものを食べることが可能になった。

 

食習慣の乱れは様々な悪影響を引き起こす。

1に、子どもの栄養バランスが偏る可能性がある。

その結果として特に懸念されているのが、子どもの間に広がる生活習慣病(糖尿病や肝硬変など)の問題だ。

 

また2には、子どもの生活習慣全般に悪影響を与える可能性がある。

例えば、決まった時間に食事を摂らない状況が続くと、規則正しい生活を送れなくなってしまう。さらにこれらの諸問題は、子どもが大人になった際、次の世代へ引き継がれてしまうかもしれない。

 

マゴハヤサシイ、オカアサンハヤスメ

 

各所で対策も始まっている。

 

例えば食育基本法に基づく食育推進基本計画(20064月に閣議決定)が、食育に関して2010年までに達成すべき目標値を定めている。その中で「朝食を欠食する国民の割合」を、小学生では4%から0%に引き下げる。そのための具体策の一つとして、官民共同で『早ね早おき朝ごはん』運動を展開している。

 

民間からの面白い提案もある。

食育の推進者は、子どもが偏りのない食事を摂る方法として「マゴハヤサシイ孫はやさしい)」などの標語を提案している。

これは豆・ごま・わかめ・野菜・魚・椎茸・芋の頭文字をつなぎ合わせた標語だ。日々の食事でこれらをきちんととっているかどうかを気にすれば、ある程度、栄養のバランスを保つことができる。

 

逆に子どもが好み偏食を誘いがちな料理群のことは「オカアサンハヤスメお母さんは休め)」と表現する。

これはオムライス・カレーライス・アイスクリーム・サンドイッチ・ハンバーグ・焼そば・スパゲッティ・目玉焼きを指す。

親は自らの責任を自覚している?

 

少し古い情報だが、千葉大学の研究グループによる論文『学童の親がとらえた子どもの生活習慣と生活習慣が改善できない理由』に興味深い報告がある。同グループは1998年に千葉県と岩手県の保護者を対象にアンケートを実施。「改善したい子どもの生活習慣」をきいたところ、食習慣を指摘した人が 34.9%いたのだ。これは、ゲームのしすぎ(18.9%)や規律の乱れ(24.5%)などを上回る。その一方で「食習慣を改善できない理由」をきいたところ、家族の影響(親の努力不足や時間不足など)を指摘した人が38.9%いた。こちらは、子どもの感情(14.1%)や子どもの自覚(23.0%)などを上回った。

 

この状況が現在も続いていると仮定した場合、保護者たちは「事態を自覚しているにもかかわらず改善を実行できない」というジレンマに陥っていることになる。保護者のワークライフバランスをいかに改善するのか。この点が、子供食習慣を語る上で忘れてならない視点かもしれない。

 

もり・ひろし

 

新語ウォッチャー。1968年、鳥取県出身。電気通信大学を卒業後、CSK総合研究所で商品企画などを担当。1998年からフリーライターに。現在は新語・流行語を専門とした執筆活動を展開中。辞書サイト・新聞・メルマガなどで、新語を紹介する記事を執筆している。NPO法人ユナイテッド・フィーチャー・プレス(ufp)理事。


Posted by tomato1111 at 00:05 │忙中閑