2007年03月23日

ふぐ中毒(韓国)

韓国今を去る27年間前のこと。

韓国の国営放送局KBCへ、放送機器を売り込むべく出張していた時の話。

商談を終え、顧客幹部とソウルの代理店担当部長と昼食を一緒にとることになり、季節は冬だったので放送局の人がよく行くふぐ専門の料理店へ行った。


正午過ぎの1時近かったので、個室が空いていたので卓を囲んでふぐ料理に舌鼓を打った。日本のふぐ刺しのような繊細なものでなく、ぶっきりのふぐが鍋に入って出てきたような記憶がある。ふぐのかたまりを口に運び、骨を舌で探して卓の上に出すという作業をした記憶がある。

商談も一段落していたので、慌てずゆっくりとふぐを味わって、一同揃って店を後にして顧客とわかれ、自分は代理店担当部長と並んで歩いていた。

 

すると代理店の部長が韓国の饅頭(マントウ)を食べようと言い出した。

今ふぐを食べたばかりなのにと怪訝には思ったが饅頭を売る店について行った。

自分も道を歩いていて何故か足の運びがぎこちなく、何か突っかかるような気がしていたのでそのことをいうと、もしかしたらふぐに当たったのかもしれないと言い出した。

 

饅頭を食べながら部長は私に「舌がしびれていないか?」と聞いてきた。後で聞くと、しびれが本当かどうかを、饅頭を食べて確認しようとしたのだとか。

 

代理店の部長は電話で一緒に食事をした顧客に様子を尋ねると、同じように口の中にしびれを感じているという。

 

痛いそこで部長と連れ立って食事をしたふぐ専門店へ戻り、その旨を店の人に説明した。

ふぐ料理店の人いわく、「食事をしてから1時間以上経過している。あなた方は今生きているので命には別状は無いだろう。」「少しふぐに当たったようなので薬局へ行って薬を買ってくるから待っているように。」と言い残して薬の錠剤を買ってきてくれた。

 

この薬を3時間おきに24時間飲めばしびれは直る」と言われて、薬を貰って私は早かったが午後の予定を取りやめて泊まっていたホテルへ戻った。

ホテルのフロントマンに、「ふぐにあたって身体に変調をきたしている。3時間おきに薬を飲めと言われている。自分は一人で部屋にいるので、万が一私に意識不明などの事態が起こらないとも限らないので、3時間おきに誰かが私の部屋へ様子を見に来て欲しい。」と伝えて部屋のベッドに潜りこんだ。

 

ベッドの上で静かにしていた。

少しずつおかしくなってくる。先ず舌のろれつが回らなくなってきた。

眼でTVを見ていたが、眼球の動きがおかしくなり、ピントが合わなくなってきた。

店の帰りからずーっと手足の先の感覚がなくなってきていた。

 

時間の経過と共に、自分の心臓の動きがおかしい。

リズミカルでなくなってきているのが自分でよく分かる。『ド、ドドッ、  ド、ドドッ』というような感じである。

 

アー、自分は何の因果か知らないが韓国へ出張で来て、ふぐにあたり一人寂しく死ぬのかも知れない。」という思いが強くなってきた。日本に残してきた幼い子供たちや妻、家族の顔が、ベッドに寝ている自分の頭の中に浮かんできた。

 

ふぐの毒は、筋肉を冒して死を誘うと言われている。

まず手足、舌、眼球、そして筋肉で出来ている心臓までふぐの毒に冒され始めたのだ。ベッドの上で仰向けになって天井を見ている、しかもピントが合わない状況で。身体も筋肉で出来ているので自由に動かせない。

しかし脳みそは、ベッドの上にいてもしっかりと考えることが出来た。脳みそは筋肉では無いからだ。

 

ますます、迫り来るふぐ毒による死を意識した。

 

薬も3時間おきに飲んだかどうかは覚えていない。

意識が消えていった。

 

気がつき目が覚めて周囲を見回すと、日が改まっていたが同じホテルのベッドの上にいた。ふぐを食べてから、およそ24時間が過ぎていた。

自分は生きている。昨日のしびれなどの感覚は薄らいでいる。

 

何が功を奏したのか?

ふぐ料理店がくれたふぐ中毒対応の薬が効いてきたとしか思えない。

薬と自分の生命力が、ふぐ中毒と壮絶な戦いを行った結果、勝ったのかもしれない。

生きている自分を自分で知って、一先ず喜んだ。家族から離れて一人、韓国のホテルのベッドで若くして死ぬのだけは免れたのだ。

 

ふぐ料理屋の「死ぬことは無いだろうという」という予言は当たったが、怖い経験をしたものだ。

 

後で聞くとその当時は韓国ではふぐ料理を行う場合に、ふぐ料理免許制度が無かったのだ。今は確認していないが、その後オリンピックを経験した韓国だから、当然ふぐ料理免許制度はあると思うが。

 

帰国してから部長に出張報告をすると、「ふぐの本当の通は、食べてしびれなければ本当にふぐを喰ったことにはならないという。今日の帰りにふぐを食べに行こうか?」と誘われたが、迷わず断った。