2007年02月19日

電車線路内事故

心配今から11年前、平成八年の初夏のJR横浜線町田駅で、実際に出会った事故の話。

当日わたしは新横浜駅近くのホテルで、ある国家試験がありそれに参加するため、横浜線町田駅のホーム階段下で横浜方面行きの電車を待っていた。
朝の8時過ぎで、小雨が降っていた。
するとわたしの隣に立っていた20歳前後の青年が急に体が震えだして、アッと思ううちにホームから転げ落ちて線路に落下してしまった。
落下しても震えていて自分で立ち上がることが出来ない。


わたしは八王子方面から来る電車の姿を見て、このままでは青年が轢かれてしまうと思い、直ぐに線路に飛び降りた。
理屈でなく身体が反応して飛び降りた。
そしてその青年を線路から脇の側帯に移動しようと試みたが、身体が重いのと震えている身体で動かすことが出来ない。

 

ホーム上には朝のラッシュ時間だったのでたくさんの人がいたが、誰も手助けがなく、見ているだけ。

すると学生らしきやはり20歳代の男の人が黙って線路に飛び降りてきてくれた。
二人のやることは決まっているのでその男の人とは口を利かずに黙って持ち上げようとしたが、重いのと動いているので移動が難しい。

 

倒れた若人は無防備の状態で高さ1.5m位あるホームから石と鉄の線路に落下したので、顔から出血して血だらけの状態。

 

私は彼の頭の方を抱えて、八王子方面を見ながら移動を試みた。
この目で横浜行きの電車が入線してきたら、最後は自分の安全を考えて逃げようと思い目は来る電車に向けていた。
一緒に助けに降りた男の人は、わたしと反対に八王子方面を背中にしていたので、来る電車の状況は分からない。

 

ホームには安全確認をする駅員がいるはずだが、助けがこない。

飛び降りた若い男の人とふたりで、頭から血を流している身体を震わせている男の人を、何とか線路脇に抱えて移動させることが出来た。
気がついたらわたしの白いYシャツの胸の部分は直径20cmくらいが鮮血に染まっていた。

 

路脇に移動が終わった頃にようやく駅員が担架を持ってきて、「どうですか?」などと声をかけてきたが、その時は移動が終了していたときだ。
そして駆けつけた駅員によってホーム場に引き上げられた若い人は、担架で運ばれていった。

 

移動が終わって線路を見ると、町田駅ホームの直前に電車が止まってくれた。

 

わたしは当日の国家試験に遅れては意味が無いので、ホームに上がり、駅員に「あとをお願いします」と声をかけて、入線してきた電車に乗り新横浜に向った。

 

電車に乗り込むと、混んでいる社内であったが皆わたしから1mくらいの距離を置き離れていく。
それもそのはずで、わたしのYシャツの胸部分には真っ赤な鮮血が20cmもついていれば、普通ではないことがわかる。

 

殺人犯が返り血を浴びて電車に乗り込んできたと勘違いしているのだろう。
自分から状況を説明するのも面倒なので黙って立っていた。

車内アナウンスで「この電車は、町田駅で人が線路に落下する事故があったので15分遅れている」と説明していた。
その当事者が自分なのだが。

 

試験会場についても、胸の血は隠せず要らぬ説明をする羽目になった。
時間が無いので替えのシャツを買うことも出来ない。

 

試験を終えてJR町田駅の事務室に立ち寄り、「今朝の線路に落ちた人は無事だったでしょうか」と聞いたところ、救急車に引き渡したので詳細は分からないが、命には別状が無いと聞いているとの返事。
駅員はわたしになんでそれを聞くのかと聞いてきたので、『わたしが線路に下りて側帯に移動させたものです』というと、わたしのYシャツの血痕を見て理解したのか、
JRが発行している500円のオレンジカード2枚をクリーニング代にしてほしいと渡された。
今でもそのときに駅員から渡されたオレンジカード(横浜から甲府に直行する「はまかいじ」という平成八年四月二十七日デビュー 列車開通記念カード)が、手元にある。

 

駅員も慌てていたのか、わたしも試験に遅れてはいけないと現場に立ち止まっていなかったので、自分の氏名はいまだに名乗ってはいないし聞かれてもいない。

国家試験は、合格した。

 

そのあと新大久保で韓国の学生が線路に落下した人を救おうとして、電車にはねられてマスコミで取り上げられた事件もあったし、
最近は板橋の踏み切りで、線路内に入った女性を助けようとした警察官が亡くなるという痛ましい事件が起きている。