2006年08月13日

黒川のお盆さま

黒川のお盆は、八月の旧盆だ。

8月11日の菩提寺 西光寺での大施食会法要も済ませ、今年の新しい塔婆もお寺様から頂いた後で、各家庭でのお盆さまとなる。

8月13日の夕方から夜にかけて、先祖の霊をお迎えに行き、14日は先祖の霊が実家でお休みになられ、15日の夜お送りするというのが一般的だ。

地域によっては旧盆であっても、先祖の霊をお送りするのが16日というところがあるが、黒川は15日の夜である。


長老に確認したことは無いが、わたしが思うには黒川は農村地帯であり夏とはいえども繁忙な農作業が待っているので、16日より1日早めて15日に決めたのかなと考えている。

いつか菩提寺の住職さんにも聞いてみようと思う。

 

13日のご先祖様を迎えるに当たり、家では仏間に盆棚(精霊棚・しょうりょうだな)を設ける。

自分の山から切ってきた新竹(にいこ)と呼ばれる今年生まれた新しい若い竹を4本切ってきて、棚の四隅に建てる。棚の台はわたしの家では、大樽を使っていた。

大樽の上にはコタツ板を載せ、その上に茣蓙(ござ)を敷く。四隅に建てた若竹を藁(わら)で編んだ縄で囲み、その縄から家に伝わる仏に関する巻物や、畑から若い里芋、落花生、まだ若い青い柿の実、ほおずき、麦の穂などを下げる。

盆棚飾り方 

 

 

(参考イラスト:西光寺から頂いた小雑誌「明珠(みょうじゅ)お盆号

2006」 から引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

棚の上には畑からとってきた新鮮なナスとキュウリを使って、ご先祖さまが往来する時に乗っていただく牛馬を作る。

ハレの日のお盆を迎えるに当たって家では、自分の家で採れた小麦粉を使って手打うどんを作る。

そのうどんを作る過程で、なすの牛キュウリの馬の鞍を小麦粉で作る。

畑にあるみそはぎを取ってきて、花の部分を小さく束ねておく。

水の子というナスをさいの目に切ったものをお皿にいれておく。

そして「みそはぎ」に水をつけ 水の子に雫(しずく)を落としてこれを清める。

 みそはぎ

 

(畑でけなげに咲く品の良い色の「みそはぎ

僧侶の袈裟の色を思い浮かべる)

 

 

 

盆棚の上にはその家のそのときに収穫できる生産物を飾る。

すいか、めろん、なす、きゅうり、かぼちゃ、青いいがぐり、ミョウガ、しょうが、とうもろこし、枝豆等々。

 

当然ご先祖さま、新仏の位牌を中央に安置し、リンやお線香、ローソクも用意する。

お寺様がお盆の時にはすべての檀家を、回ってお経をいただくので、住職様用の座布団も用意しておく。

(最近は檀家の数が多くなり、新しい仏さまのある家だけを回るようになった。)

 

盆棚(精霊棚・しょうりょうだな)の準備を13日の夕方までに済ませておく。

 

13日の霊のお迎えは、早い時間が良いと親から聞かされていた。

それは1時間でも早く実家へ帰りたいという仏さまのお気持ちを考えてのこと。

そうかといって陽があるうちは良くない。

そうこうしていると家の前を家族連れが賑やかに、手にキュウリとなすの牛馬を持って通ると『あそこの家ではもうお盆さまのお迎えだ。

うちでもお迎えに行こうか!』と、家でもお迎えに家族総出で出かける。

 

行き先は、先祖が眠るお墓。

家長は今年取れた小麦か大麦の藁を手にして、お墓近くまで来たら、麦わらに火をつけて周囲を明るくしご先祖様が道に迷わないようにと配慮する。

用意してきたお線香に火をつけ、そのまま家まで持ち帰り、新しくしつらえた盆棚の線香立てに移す。

ここからなすとキュウリの牛馬にはご先祖さまが乗られたので、キチンと持って家の盆棚まで運び、安置する。

この牛馬はお送りの時にまた働いてもらうので休んでもらう。

 

お墓から自宅までの道のりで、十字路や曲がり角では必ず持参した麦わらを燃やして、道を明るくして、ご先祖さまが迷わないように配慮する。

そうして自宅に着いた牛馬に乗られたご先祖さまと、お線香が無事に盆棚に安置されて始めて、家族はお盆さまと共に手打うどんかそばの夕食となる。

 

盆棚の右下にも小さな茣蓙(ござ)と食器を用意し、盆棚に備えた食事と同じものを量は少ないがお供えする。

そこには明確なご先祖の霊、新仏の霊は盆棚に祭られるが、そこには祭られていない無縁仏の霊もお盆様には家に見えておられるので、無縁仏さまにお食事のもてなしをするのだと父から聞いた。

 

15日の夜は、実家にお帰りになられていたご先祖さまがお墓に戻られる日だ。

実家に一時間でも長く居ていただきたいという気持ちから、お送りする時間は16日への日付が変わる直前までいていただくのがありがたいということで、午後10時から11時にかけてお送りすることが多い。

親戚の子供達も遊びに来ている時には、眠くなる前にと午後8時から9時ごろにお送りする場合もある。

 

お送りはお迎えと逆で、まず盆棚で新しいお線香3本に火をつけ、牛馬を大事に持ち、家の庭先でまず麦わらを燃やして明るくする。

そしてお墓まで続く道の十字路や曲がり角では、道に迷わぬように麦わらを燃やしながらお墓まで行く。

家によってはお墓まで行かず、お墓の近くまでお送りする場合もある。そこには大事に運んできたナスとキュウリの牛馬、お線香を供えて帰ってくる。

あくる朝お墓に続く道には、あちこちに各家庭から送られてきたナスとキュウリの牛馬が道端に置かれているのを見る。

 

あっという間の黒川のお盆さまが終わる。

こどもたちも、仏間に新竹を使ったさわやかな盆棚が飾られるのを見るだけで、こころが洗われる気持ちになる。

 

この風習は何時までも残しておきたいが、はるひ野開発に伴い、盆棚の材料になる新竹を採る場所も消えてしまい、また昔のような12畳間、10畳間というような広い仏間も取れない狭い家では、盆棚を飾ることもむずかしくなってきた。寂しいことだ。

 

(このお盆さまに関する記述は、管理人が昔から家庭でお祭りをしてきた経験を中心としており、同じ黒川でも各家庭により詳細は異なるということをご承知ください。)